奥様が他界されたあと、ご主人は認知症になり奥様を探しまわる
以前に勤めていた住宅型の有料老人ホームでの話しです
A夫さんは、奥さんを探して廊下やダイニングをウロウロしていることが多かった。
奥さんが亡くなってから半年は経つというのに。
入居当初は、ご夫婦で住める2人部屋の広いタイプのお部屋に入居されていました。
おふたりとも80代で認知症もなく、いつも一緒に食堂へ出てきて静かにお食事を召し上がっているような方でした。
その後、奥さんが体調を崩されて入院、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。急な話しでした。
A夫さんには「奥様は入院中です」と伝えていたが、亡くなってしばらくしてから【お亡くなりになりました】と伝えていいです、と施設からの指示がありました。(ご家族さまからのご意向だと思います)
A夫さんがいつものように「〇〇ですけど、妻はどこにいますか?いつ帰ってきますか?」と聞かれました。
私は小さな声で(入院していたけどお亡くなりになりましたよ)、とお伝えしましたが、A夫さんはその言葉の意味を理解されていたのか、いなかったのか、分かりませんが、その場にたたずんで言葉を失っていました。
奥様が亡くなってから、A夫さんの認知機能は少しずつ落ちてきていました。
一日に何度も職員を見つけては、「妻はどこにいますか?」と聞いていました。
他の職員が(奥様は亡くなった)という事実をお伝えすると、「そうですか」と納得?されていたそうですが、その後すぐに忘れてまた別の職員に聞いていました。
(亡くなった)ということをお伝えするたびに、ショックを受けるA夫さんの姿を見るこちらも辛いものでした。
その後、個室に空きが出たタイミングで、夫婦部屋から1人部屋へ移動されていました。
空きがないと、1人になってからも広い2人部屋で寂しい思いをしながら、高い月額使用料を払って住んでいなければならないのです。
個室へ移られてからは少しずつ落ち着かれたご様子で、奥様を探す頻度も少なくなっていました。
認知症になった妻の面倒を見ることになった夫
こちらのご夫婦も、入居当初はお元気でした。
しばらくすると、奥様に認知症の症状が出始めたのです。
たまに不思議な(問題)行動をとってしまうのです。
テーブルの上のティッシュを永遠と⁈取り出しては湯飲みに詰め込んでみたり、ご自分で履いているリハビリパンツを脱いで、ビリビリに破いてトイレに入れてたり、尿失禁してズボンを濡らしても気が付かないで平気でいたり・・・
しかし、いつもこのような行動に出るのではありません。
ご夫婦でテレビを見ながら他愛もないお話をされている時もあるのです。
受け答えも普通だし何の問題もなく穏やかに過ごせている時間もあるのです。
だからこそご主人には理解できないのです。
奥様が認知症になっていく現実を。
しまいには、「オイ、何やってんだよ!」「こっちのズボンを履けって言ってんだろ‼」「しっかりしろー!」と大声で怒鳴り出していました。
怒鳴られても相手が何で怒っているのか理解できていません。
ただ嫌悪感だけが残ってしまいます。
職員が入居者さんのお部屋に入る時間は限られています。
訪問介護サービスとして入る時間帯もありますが、1日のうちで過ごす時間がほとんど一緒のご夫婦の一方が面倒を見ることになってしまうのが現実です。
認知症は一般的に進んでいきます。
そうなると同じお部屋で暮らしている一方の負担はかなりのものになっていきます。
ご自分の体調も悪くなってきてしまいます。
子供の立場から見て、
両親の夫婦仲がいいから同じ部屋にした方が幸せなんじゃないか?
最後まで一緒の方が安心だろう、
などと決めつけない方がいいんだなぁと実感しています。
夫婦、同じようには老いていけません。
どちらか一方が先に悪くなります。
どちらかが具合が悪くなれば、どちらかが必然的に手を貸していかなければならないのです。自分も歳をとってあっちこっち痛かったり調子悪かったりするのにです。
相手が認知症になって訳のわからないことをやり出したり、言い出したりしたら、それを制止するのもたいへんな事です。
身体も心も疲弊してしまいます。
施設の中では逃げ場がないのです。
このようなケースをいくつも目の当たりにしてきた私の意見として、老人ホームでの「夫婦同室」はおすすめ出来ないなぁと思ってしまうのでした。(あくまで個人的見解です)